ガリぞうが意外にも地元でジャグラーを打たない理由【収支日記#33:2020年11月10日(火)~11月16日(月)】 (2/2)
11月15日:阿久津主税八段
自宅で原稿を書いていると、地元の知人達を除けばここ数年で最も酌み交わした私にとっての最たる呑み仲間からLINEが届きました。
「こんばんは。明後日久々に常勝理論に行くんですが最近の台は何かオススメとかありますか?スロ自体最近打ててないからハナビやバーサスとか渋い立ち回りになりそうです。」
彼の名前は阿久津主税(あくつちから)。
A級経験者(黄金聖闘士のようなモノ)でタイトルも獲っている、NHKでもイケメンな姿をご覧になった方が多いだろう将棋の著名なプロ棋士です。
彼との出会いは地元の女流プロ棋士とのつながりが発端でした。パチスロが好きな彼女に私がパチスロライターを紹介し、彼女も私にプロ棋士を紹介する流れから互いの業界同士の輪が広がり、5年ほど前のプロ棋士達とパチスロライター達の集いが彼との初対面でした。イケメンなのに彼女もいない事に酒の勢いで言及すると、「女性とのお付き合いは勝ち負けが決しないので苦手です。」と言われ、この人の脳みそは将棋盤で出来ているのかと感じた事を今でも覚えています。
波長が合ったのか、その後も私が上京する度に、そして彼に北海道の仕事が入る度に会うようになりました。会話していていつも思うのは、当たり前すぎるのかもしれませんが頭の回転が圧倒的に早い事です。以前、彼が北海道へ遊びに来られて、パチンコ屋の開店前に私と並んでいた時もそうでした。
列の後方で前に100人以上並んでいる状態で彼がジャグラーのガックンチェックの話をしていたので、
「だったら1BETじゃなく2BETでチェックした方が良いですよ。データカウンタが1ゲーム進むかどうかで既に1BETチェックされてしまっているかどうか分かりますから。」
そうアドバイスしたところ、
「なるほど。では1BETで2ゲーム回しても良いんですかね?最初の1BETでリプレイ揃ったらもう1ゲーム回せて結果1枚得しますよね?」
まるで矢倉を急戦矢倉に昇華させるかのように、私が差し出したスキルをその場であっさり改良できてしまう応用力に感嘆せざるをえませんでした。
(将棋界には彼が得意とし好成績を上げていたから名付けられた「阿久津流急戦矢倉」という戦法が実在します。)
同じく開店前の並び中の出来事で面白い話があります。彼と2人での開店待ち中、私が「将棋ウォーズ」というネット対戦型のアプリで遊んでいた時の事でした。
元々の下手さに加え10分しか持ち時間がないゲームで、あっという間にほぼ詰み(に私には見える)まで追い込まれた時、私のスマホを覗き込んだ彼は一瞬で「まだやれますよ」と一言。
彼のアドバイス通り数手ほど進んだだけで、ほぼ詰まされ状態に見えた形勢は一気に逆転し、勝勢と言えるほどになりました。
決して盛ってる訳じゃなく、本当に僅か数手ですよ?
しかも、終了後には「負けた対戦相手がここで折れてしまわないか心配です。」と、遊技人口についてまで配慮していました。日本有数のトッププロなのだから当然なのでしょうが、感覚で言えばまさに「ヒカルの碁」の佐為が私に宿った瞬間が垣間見えました。
そんな彼に私は謝らなければならない事が1つあります。これも同じく開店前の並び中の話です。
とある店の強化日に彼と2人で2時間半ほど並んでいた時でした。さすがに2時間半は手持無沙汰だったのか、彼は「一局やりますか。」と、スマホアプリの将棋盤をさっと出してきました。
おそらくは指導将棋のつもりだったのでしょう。
しかし、これを私は拒否。
本来、お金を払って受けるべきトッププロの指導将棋を、パチンコ屋の開店前の並び中に私なんかが無料で受ける事に恐縮してしまったというのがその瞬間の正直な気持ちでした。また、一瞬で底を知られるだろう己の情けなさを避けたかった気持ちもあったかもしれません。しかし、後に色々な方から話を聞くと、阿久津さん側から差し出されたなら断る方が失礼との意見を多数頂戴しました。あの時の己の判断を申し訳なく思っています。
何よりも驚かされるのは、どんな時も間が空くとスマホを手に取り何かしらの棋譜を見ています。電車移動時も、開店前に並んでいる時も、パチスロを打っている時も、お酒を呑んでいる時さえも、です。「気分転換も必要ですから」と言いながらパチスロを打っていても、やはり彼の脳は将棋盤でできているようです。
そんな彼も素敵な女性と出会い、4年半前に結婚。ただの呑み仲間だった優男は一家の主となりました。結婚式にも呼んで頂きましたし、どういう訳か北海道での新婚旅行を私の車で案内するという明らかなお邪魔虫を体感させてもらいました。知り合った頃の彼は生涯独り身だろうと思っていましたが(失礼)、この数年で結婚し子供が生まれ、夫として父親として変わっていく姿を見ていると、とても感慨深いものがあります。
「変わった」と言ってもそれは立場だけで、本質的な部分は全く変わっていないように思います。おそらく彼は、プロ棋士同士は全てが勝負事であり、どっちが勝ったか負けたかを一生続けて然るべきと思っているんじゃないでしょうか。
対局以外のお仕事においても、同情を買ったり酒の席の流れで付き合いを広げるんじゃなく、自らの棋力や魅力を認めさせて仕事を勝ちとるべきと考えていると思います。そもそも論ではありますが、「女性とのお付き合いは勝ち負けが決しないので苦手です。」とまで言ってしまっていた男が勝負の世界に身を置く覚悟まで変わるハズもありませんが。
これは個人的な話ですが、彼の姿を私自身に投影すると勇気がわいてきます。
彼を見ていると、無理して世渡り上手にならずとも、自らの武器を磨き続けるだけで己を曲げないまま需要を保てるのだと再確認できます。私なんかと比較するなどおこがましい相手だとは重々承知ですが、数年ほど彼の言動を身近で見聞させてもらって感じた私の素直な感想です。数ヵ月に1度演者収入をゼロにして本来の稼働時間と自らの価値や生き甲斐を取り戻し、何れは本業のみで生きていこうと思えたのも、彼の姿から暗に背中を押してもらえたからかもしれません。出張のお仕事を減らしてしまうと、呑み仲間の彼と酌み交わせなくなる事が心残りですが、遠くは北海道から今後も彼を応援していきます。
追伸。
LINEでの会話は番組内容に影響がありそうなので割愛させてください。私との会話を経てどんな実戦になったのかは、MONDO.TVの「常勝理論」をご覧ください。
以上です。
今週は実戦記と雑感コラムに加え、久しぶりの知人紹介もしてみましたが如何だったでしょうか。「私の周りにはパチスロ好きが多い」と思っていましたが、脳の能力が圧倒的に高いだろう彼と知り合った事で「パチスロの事しか知らない私に皆が合わせてくれているんだ」と気付きました。人に恵まれている自身の立ち位置に感謝しつつ綴っていきますので、今年も当収支日記をよろしくお願いします。
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