ぱちんこ依存のキミへ…あしのが人生で一番危ないパチスロを打った教訓を元に伝えたいこととは?
大学生の頃の、苦い思い出だ。
筆者が生まれてはじめてパチンコを打ったのは「ミルキーバー」だった。権利モノといって大当たりの後に右打ちで役物に玉を入れると3回の当たりがワンセットで発生するタイプのヤツで、当時遊び方が分からなかった筆者は店員さんに教えを請いながらその消化方法を覚え、交換までやっと1人でやれるようになったあと、狂ったようにホールに通うようになった。
一体何がそんなに面白かったのか、今ではもう記憶に霞がかかったようにトンと思い出せないけど、とにかく、毎朝目覚めるのが愉しみで仕方なかったし、家を出てハンドルを握ってホールへ向かうのも、並ぶのも、お金を投入するのもとにかく興奮してたまらなかった。
そんなんだから、筆者は大学へ行かなくなった。
中学・高校と元々ゲーセンばっかり行ってサボりグセがついてたのもあるけど、それでも卒業出来たし成績も良かったんで大学も同じ感じで大丈夫だろうと思ってたのだけど、流石に親元を離れての一人暮らしだと誰も注意してくれる人がおらず、「サボり」の範疇をスコンと抜けて完全に「行かなくなった」。
んで、堂々とサボるくせに微妙にチキンな部分がある筆者は1年をまるまる無駄にしたあたりで「これは何か理由をつけて休学したほうがいい」と判断し、それを親に直訴。「自分で学費払うなら好きにすればいい」という言葉に従って、2年目は「パチンコを打ちながら学費を稼ぐためにバイトする」という生活に入った。
ちょうど「派遣社員」というのが出始めた頃だ。
当時はまだ「派遣」という業務形態が珍しかったし派遣元も「パソナ」くらいしか無かった。競争相手が居なかったからか時給が非常に高く、1年も真面目に働いてれば余裕で学費が貯まる計算だった。
働いて、パチンコを打って、働いて、パチンコを打つ。
稼いだ分を稼いだだけパチンコで溶かすので貯まるわけはなかったが、そこで救いの手を差し伸べてくれたのがおばあちゃんであった。
「あんた、お金無いやろ」
実家に帰ってメシを食ってるときに、婆ちゃんが何もかもお見通しみたいな目でそう告げるや、茶色い封筒をポンと渡してくれた。翌年の前期の学費ピッタリのお金がその中には入っていた。
「……いいの?」
「うん。ええよ。真面目に学校いかんば」
思わず天を仰いだ。助かった。と思うと当時に、悲しくなった。自分が「このお金をホールで溶かすだろう」という確信があったからである。なんせ、その時分はすでに「獣王」などの爆裂AT機が登場している時期で、筆者もその主戦場をパチスロに移行していたからだ。とにかくパチスロが楽しくて仕方なかったし、呼吸や食事や睡眠と同じく、生きる上で必要なものになっていた。
これを使ったら流石にクソ野郎過ぎるので使えない。と分かってはいたけど、そんな自制心がブレーキのブの字の役にも立たない事はこの1年の、給料日のたびに思い知っていた事だった。
そして翌日、当たり前にパチスロに行った。軍資金の茶封筒を懐に忍ばせ。
当たり前に負けてマンションの部屋に帰ったあと、まずは吐き気がした。布団に蹲って枕に額を打ち付ける。こうなるのは分かってたのに、俺は馬鹿か。と思った。実際馬鹿なんだけども、今まで本格的にドロップアウトを経験したことがない、なんちゃって落ちこぼれの筆者は、この時初めて「ああ、俺は他の人とは違うのかも知れない」という、疎外感みたいなのを感じた。
人生は選択の連続だ!
シェイクスピアの言葉である。いかにも含蓄がありそうな言葉だけど、実際、岐路に立たされた人間にとって選択肢なんかは用意されてない。身の回りの状況や、あるいは身体的特性か、もしくは精神的な弱さか。なんか分からんが、一見提示されているように見える選択肢だって、人は往々にして、予め、チョイスする道が決まってる。見識や判断力や熟考の末、なんてない。もはや偶然に頼った、コイントスですらない。ただシンプルに、悪い方へ。楽な方へ。人は逃げる生き物なのだ。
使ってしまった授業料の穴埋めに筆者が選んだ道は、思いつく中で最悪だったと思う。消費者金融だ。
人生で一番危ないパチスロ。
6万ほどの穴埋めの為に向かった消費者金融。総量規制が敷かれる前だったので、学生でも楽勝でお金を借りることが出来た。当時付き合っていた彼女がまさしくTという消費者金融の受付をやっておりその情報を知っていた筆者は「自分の彼女に借金の書類の受付をしてもらう」という恐るべきアクションをとった。多分頭がイカれてたんだと思う。
「……ホントにいいの?」
「うん。もうこれしかねぇ……」
「えー……。わかった。じゃあ印鑑と、あと免許証……」
10分程で終わった審査。貸し出し限度額は30万円だった。
「6万でいいのね?」
「うん」
「じゃあ、そこの貸出機の方に。使い方教えてあげる」
普通のオフィスっぽい作りのフロア。その脇に、銀行のATMを思わせるマシンがおいてあった。OLスタイルの彼女と一緒に並んで、受口部に今しがた受け取ったカードを挿入する。暗証番号を入力して、そうして最後に希望金額を入力……。
「いや、待った」
「え?」
「やっぱりこれ、10万借りる」
素早くキーを操作して入力を済ませると、やがてカードと一緒に現金が出てきた。
「何に使うのよ」
「獣王」
「はぁ……?」
「差額の4万で勝負してくる。よく考えたらそれで勝ったら借りる必要無いし」
「えぇ……。何怖い事いってんのよ……」
繰り返すけど、人は悪い方へ。楽な方へ逃げる。そういう風に出来てるのだ。
「じゃ! 行ってくる!」
「ちょ……。あ。ありがとうございました……」
小走りで店を出て、財布に現金をねじ込みながら車に乗り込む。キーを回すと、つけっぱなしだったカーステレオからメタリカの「パペットマスター」が爆音で流れた。
マイライフ。ユアライフ。操られていく。
パペット・マスター。お前は誰だい?
ハンドルを握って。アクセルを踏み込む。まさしく操り人形の如く、ホールに向かって舵を切る。手首と足首。もしかしたら心臓にも巻かれたピアノ線をたぐったら、その先で操ってるマスターは誰なんだろう。なんとなく答えはわかっていた。パチスロである。その時筆者はパチスロに操られていた。依存症である。
ホールについて「獣王」に向かった。
着座して、千円札をサンドにブチ込む。ジャラリジャラリと落ちてきた平べったい弾丸を投入口に入れて、まずは深呼吸。中押しで、7図柄を狙って消化を始める。たぶん俺はまた負けるだろう。だけど大丈夫。なんせ、まだ枠は20万もあるのだから。大丈夫、大丈夫──……。
──人生の、本当に大事な岐路には選択肢なんて用意されていない。選ばれるべき選択肢を、当たり前に選んで、あとはその運命を受け入れるだけである。人は悪い方へ、楽な方へ逃げる生き物だし、それはもう、弱いのだから仕方がない。善くありたいとか、強くありたいと願うのは当然だけど、その想いと実際の結果には、たぶん何の関連性もない。頑張ったから何とかなかった、と頑張ったけどダメだった、はたぶん五分五分か、あるいはもっと分の悪い勝負で、その結果を決めるのは、存外ただの「運」なのかもしれない。
なんせ、半分自暴自棄で打ったその時の「獣王」で、筆者は大勝ちしたのだから。
……おれはしょうきにもどった! 交換を済ませた筆者はイエスの「ロンリー・ハート」を口ずさみながら消費者金融に戻り、午前中に借りたお金をすっかり返したあと、駐車場でそのカードをライターで炙ってぐにゃぐにゃにして、フェンスの向こうの森みたいな所に蹴り飛ばしてやった。そのまま大学に向かって窓口で来期分の授業料を払い、マンションに帰って、それから、キッチンで土下座するようなポーズを取った。祈りである。ありがとうありがとうありがとうありがとうありがとうありがとう。心の中で偶然に感謝した。たまたまの爆裂がこの日、この瞬間に来た僥倖に嗚咽しそうになった。
自分が物凄く馬鹿な事をしたのは分かっていたし、もしかしたらこれでとんでもなく大変な事になっていた可能性がある事も分かっていた。単純に運良くそうならなかっただけだ。努力でも信仰でもない。ただの運である。運良く助かった。運良く、助かったのである。
ただ、運良く、だ。何度も何度も繰り返すけど、ただの運なのである。
ぱちんこ依存のキミへ。
実は去る5月14日から20日までは「ギャンブル等依存症問題啓発週間」でありました。これは毎年ある事なのだけども、知らない人は意外と知らないかもしれない。啓発というからには啓発のために何か書こうという事で、こちらのコラムを書いてる次第。
で、これを読んでる方で「今現在ヤバい人」というのがやっぱりおられると思う。それこそ老若男女問わずだ。
苦しいとか、キツイとか。怖いとか。それでも漫然と打つのがヤメられなかったり、あるいは何かを犠牲にしても打っちゃったり。絶対いるハズ。一方で、それを指差して笑ったり、蔑む人もいるだろう。
なんでこの6号機の時代に依存症よ。と。
でもね、指差して笑ってる人と、震えながら打ってる人の差ってびっくりするくらい無いんだよ。同じなんです。ただの運に過ぎない。忠告してくれる人が側にいたか、いなかったか。生活環境や考え方の差だって、本人にはどうしようもない部分がある。人間関係の悩みやストレスが依存につながる事もあるし、他に打ち込める何かに出会えたか、出会えなかったかの差もある。
筆者は依存に片足突っ込んでツイスト踊ってた自覚があるんで、それで苦しんでる人の話を聞くと可哀想で仕方がない。だって、貴方は俺だし。俺は貴方だし。その差は、ゼロに等しい。たまたまだよ。
今この瞬間にだって、今晩食べるものすらなかったり、督促に怯えたり、部屋をおんだされそうになってる人もいるだろう。そういう人に、筆者は声を大にして言いたい。相談機関を利用しなさいと。
それで解決するかどうかは別として、解決するためのヒントや、あるいは具体的な方法についてレクチャーしてくれる可能性は非常に高いと思う。
繰り返すけど、別に貴方は悪くない。強いて言うなら運が悪いだけです。だから恥ずかしがらずに、電話してください。
話すだけでも、気が楽になるかもよ。
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