なんか忘れてる?『目指せドキドキ島』で投資ゼロ枚で万枚近く出した話

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人には誰しも封印したい過去がある。黒歴史と言っても良い。2004年の頃だ。俺は田舎のバンドマンとして完全に調子に乗っていた。今思い返すと恥ずかしくて死にたくなるけども、金髪を肩まで伸ばしてサングラスを掛け、マイカーをブイブイとカッ飛ばしつつ、何か知らんが交番の前を通りかかる度にメロイック・サインをお見舞いするとか、そういう事を普通にやっていた。分析するに大音量でメタルを聴きすぎて常に脳震盪みたいな感じだったんだと思う(ちなみにバンドではビートルズのコピーやってた。しかもリンゴ役)。

 

そんな折、良くわからない女の子と知り合いになった。これがまた不思議な事に何で仲良くなったのかも全く覚えてない。というか後に語るけども、当時からして一緒に居ながらにして「この人どこで知り合ったんだっけ」と疑問に思ってた感じなので、恐らく酔っ払った勢いでナンパしたとかそんな感じなんだと思う。だので名前も覚えてないんでここでは彼女を仮に「Sちゃん」としよう。

 

チワッスあしのっす! 

 

今回は誰にだってひとつやふたつはきっとある、若かりし日の消したい思い出についてつらつらと。罪悪感と後悔と。それから胸が苦しくなるような、青春への憧憬を貴方に。いくぜプレス!

 


夏のインフルエンザ。

 

自慢じゃないけども、俺はインフルエンザが流行する度に寝込む。やや潔癖気味なので人よりこまめに手を洗うタチなのに何か知らんがすぐ罹る。今まで数え切れぬほど喰らい、そして毎回死にそうな目にあっとる。たぶんそういう星の下に生まれてるんでこれはもう仕方のない事なんだけども、2004年のそれは色んな意味で大変だった。

 

高熱と関節の痛みに耐え、ふらふらの状態で向かったかかりつけの町医者。白衣のドクターは俺の鼻の奥深く、脳みそにブチ刺さんばかりの勢いで綿棒を突っ込んだあと、しばしのちに「インフルエンザですね」と言った。我が耳を疑う。

 

「夏ですよ?」

「夏もインフルエンザは罹るんですよ」

「どこで罹ったんですか、俺」

「さァ……。それは知りませんけども……」

 

子供の頃から幾度となく経験してきた自称インフルプロの俺も夏場に罹るのはその時が初めてだった。釈然としないままハンドルを握り自宅へ戻る。今までの経験上、この感じはまだ山の頂点じゃない。恐らく今晩くらいから死ぬ目に遭うんで、対策しとかないとマズイ。途中でコンビニに寄ってスポーツドリンクとみかんゼリーをありったけ買い込む。

 

当時俺は長崎の片隅で一人暮らしをしていた。誰にも干渉されず悠々自適に過ごすのはとても具合が良い事ではあったけど、往々にして「自由」は「責任」とのトレードオフになっておるもので。まさしく困るのがこういう「有事の際」だ。つまり一人暮らしだと寝込んだ時に結構怖いのである。

 

枕元にスポドリとゼリーを並べる。万が一に備えて携帯もすぐ手が届く位置にセットし、寝間着姿でベッドに寝転んだ。現在体温は38度後半。瞳を閉じると直ぐに意識が無くなった。

 

猛烈な寒気で目が冷めたのは真夜中だった。あっという間に12時間ほどが経っていた。胸の奥の臓器が早鐘のように振動している。関節が硬直して体中が棒になった感覚。頭痛は全然ない。ただ寒くて痛い。そのくせ汗は吹き出る。熱を測ると40度に突入していた。これはもう絶対ヤバい。なんとか上半身を起こしてスポーツドリンクを煽ったが、上手く飲めない。口の端からダバダバと溢れる。平衡感覚が無くなってて、まっすぐ座れなくなってた。吐き気をこらえてみかんゼリーをかっこむ。スポーツドリンクで流し込む。肩で息をしながらしばらくベッドに突っ伏してすぐに意識を失い、また悪寒で目覚めてはみかんゼリーとスポドリを流し込む。

 

明け方。朦朧とする意識の中でSちゃんの事を思い出した。良く分からんが最近メールする子だ。いつの間にか仲良くなってるけど、あの子は一体どこで知り合ったんだろう。見た目も別に好みじゃない。話しててもあんまりおもしろくない。彼女からの好意は何となく感じるけども、それに応じるつもりも無ければ拒否するつもりもなかった。路傍の人だ。ただ彼女は看護科の生徒だった。看護師のタマゴなのである。

 

震える手でケータイを取る。やっとこさ「おきたられんらくおねがい」みたいな文面を作り、深く考えずに送信した。

 

 


ユア・マイ・エンジェル!

 

意識が混濁してたのもあり、どういう経緯かホントに覚えてないけども、気づいたらSちゃんはうちに居た。両手いっぱいに買い物袋を下げて。

 

「なんでこんなにみかんゼリーばっかりあるんですか」

「インフルには……みかんが……効く……」

「効きませんよ。もうちょっと栄養があるものを──」

「今はみかんしか……たべたく……ない……」

「おかゆ作りますから、キッチン借りますよ」

「みかん……」

 

あんまり覚えてないけども、無理くりおかゆを食わされてそれから濡れタオルで上半身を拭かれた。着替えの場所を聞かれたので指でタンスを示すと、新しいシャツを用意してくれた。熱を測っては、寝かしつけられ、起こされては何か食わされる。一旦家に帰ったSちゃんは、次に来た時にはまた買い物袋を下げていた。

 

「どうですか、具合は」

「ああ、かなり良くなった──」

「熱はどうですか?」

「さっき測ったら37度……もう殆ど平熱だったよ」

「まだ安静にしてないとだめですよ。スポーツドリンク買ってきたんで、飲んでください」

「ああ、ありがとう。あれ、財布どこかな。……お金払うよ」

「ううん。いいんですよ」

「良くないよ。そういうのはちゃんと──……」

「じゃあ、今度ドライブに連れて行ってください」

「ドライブ? どこに」

「海岸行きませんか。白浜の──……」

 

庭先にはツツジの並木があって、一本だけ大きな欅が黄色くなり始めた腕を伸ばしていた。向こう側から夕日が差込み、部屋の中に大きな影を作っている。とぎれとぎれの蝉の声。夏の終りはもうすぐそばまで来ていた。

 

病気で心が弱っていた事もあるし、甲斐甲斐しく世話をしてくれたSちゃんの事が、とてもとてもキレイに見えた。白浜。海は好きじゃないけど、この子と並んでふたりして、静かに海を眺めるのも悪くないかもしれない。

 

「いいね。分かった。いつが良い?」

「いつでも良いですよ。ちゃんと体調が良くなったら──……」

 

頷いて、ベッドに横たわり目を閉じた。やがてキッチンの方から、トントンとリズミカルにまな板を叩く音が聞こえてきて、なんとなく、嬉しい気持ちになった。

 

 

めざせドキドキ島!

 

翌週の土曜日。約束通りSちゃんを連れて海までドライブをする日だ。待ち合わせ場所は島瀬公園という所で、お昼には合流する予定になっていた。何となく時間より早く着いた俺は、近所のパチ屋へと向かった。しばらく寝込んでたし人に感染すのもアレだったから今まで自重していたのだけども、もう解禁で良いだろう。あんまり時間掛かる奴は避け、ジャグラーでも打ってデート代を増やそう。

 

2004年に市内にあった某中規模ホールだ。1階は当時大流行していた「北斗の拳」の専用島になっていて、2階がそれ以外の機種。ラインナップもそんなに悪くないし等価交換だったけども、近所に有名なパチ屋がいくつかあるため、新参店舗であるここは不人気でいつもガラガラだった。そしてガラガラであるがゆえに、俺はこの店を愛していた。

 

迷わず2階へと向かいジャグラーを目指す。

 

相変わらず閑散とした店内。特に2階は酷いもので、終日お客が片手未満という事さえ珍しくなかった。そしてその時、俺の目はとんでもないものを見つけた。薄暗い中で激しく輝く台枠。オリンピアの「めざせドキドキ島」だ。立ちすくむ。そして回りを見渡す。誰も居ない。下皿を確認する。なにもない。ようやく事態を把握して、天を仰ぐ。

 

「うそだろ……」

 

思わず声が漏れた。ドキドキ島はポイント減算式の周期抽選・ストック機になっていて150ポイントごとに「ドキドキレース」という演出が入る。最近だと「やじきた道中記乙」の「関所チャレンジ」を思い返して貰えれば分かりやすいと思うけど実際内容はあれとそんなに変わらない。設定ごとに決まった確率でレースを突破。ボーナス放出となる。

 

レースに出場してるのは7種類の動物たちで、このうちカンガルーが敵役。これが勝つとハズレだ。それ以外の動物はどれが勝っても当たりなのだけども、動物の種類によってボーナスのループ率が違うという仕組みになっていた。ブタは殆ど単発。カバやキリンはまあまあアツい。ゾウとかパンダになると激アツで同モードループ率が80%とかになってた。

 

一応、データマシンの呼び出しボタンを押してスタッフさんを呼び出す。顔なじみのお姉さんだった。

 

「これ、打っていい?」

「あ。すごい、ゾウとパンダしかいませんね。何でヤメたんだろう」

「ヤバい人打ってなかった? 文句言われないかね」

「大丈夫じゃないですか? 下皿に何もないですし。一応店長に聞いてみましょうか?」

 

インカムに向かって何事かを伝えるスタッフさんを観ながらもう一度台の液晶を確認する。次のレバーオンでレースが確定するゴール前の競り合い。通常ならばカンガルー(ハズレ)を含めた他の動物が走るシーンにゾウとパンダしかいない。カンガルーが居ない時点でボーナス解除確定な上に、プレミア級の激アツ動物同士の競り合いだ。パンダの場合は平均連チャン数は10連。BR比率はほぼ1:1だけどBIGの場合400枚くらい取れるんで、確率通り引ければ2,000枚くらいは行けるハズ。

 

「あ。お客さん。大丈夫ですって。打っていいですよ」

「マジで!? ゴチ! サンキュー! ……これ千円入れなきゃだめ?」

「そこは入れてくださいよ」

「オケ……! ウォォォ! シャァ! どっちが勝ってもいいけど、強いて言えばパンダァ!! 来いやァ! パン……しゃ来たァ! パンダァ!」

「あはは。おめでとうございます!」

「イエーイ! プレミアー!」

「あはは!」

 

スタッフさんとハイタッチする。

 

1発目のボーナスはBIG。次もBIG。さらにBIG。いい感じで引き勝ちしてあっという間にドル箱別積みに移行する。連チャン数も平均を超え、なんと20連に到達した。一区切り付ける為に休憩を入れて近所の「はなまるうどん」でぶっかけを頼み、気分も大きくなってたんで珍しくえび天も付けておにぎりも食ってやった。タバコを吸って店に戻り21連目を消化。さらに消化。消化消化。終わってみれば27連の大爆発で、一撃万枚まで射程圏内でした、位の所まで伸びた。

 

心地よい疲労感と共にハンドルを握って帰宅。一度車を置いてタクシーに乗り換え、行きつけだった「Good times Roll」というジャイブ・バーでホップが効いた勝利の美酒をかっ喰らいつつドラムを叩いたり外人と踊ったりして、朝方に酩酊したまま「CHAGE and ASKA」の「モーニングムーン」を熱唱しながら徒歩で帰宅した。ベッドに転がって目を閉じる。素晴らしい1日だった。

 

長いパチスロ人生の中でも、オスイチどころかオスゼロであそこまで伸びたのは、他にはちょっと経験がない。

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1147
  • 1:2020-12-17 13:00:59おい、デートの約束は!!

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