【小説】「なわばり」第3話 謀略に満ちたライバル軍団との戦いが勃発!

【小説】「なわばり」第3話 謀略に満ちたライバル軍団との戦いが勃発! eyecatch-image

 

■短期集中連載小説「なわばり」

作:あしの

 


 

第3話「裏切り」

 

コラム 画像1

 

 

朝イチ狙い機種攻防戦

 

 パチンコ屋さんのオープニングテーマといえばまず最初に思い浮かぶのが『軍艦マーチ』だと思う。当時のVシネマなんかではパチンコ屋のステレオタイプとしてそれが使われてる描写がよくあったけども、ターボさんいわく90年代の序盤にはその曲はほぼ使われなくなっていたらしい。

 

 実際、僕が打ち始めた90年代後半によく使われていたのはT-SQUAREの『TRUTH』だろう。あのF1のテーマソングだ。あとはロッキーのテーマにもなってた『アイ・オブ・ザ・タイガー』なんかもよく耳にしていた。ブギー・マンの『パチンコマン』も一瞬だけ流行ったらしいけども、少なくとも僕は使われているのを耳にしたことはない。

 

 午後9時55分。店外に設置されたスピーカーから流れたのはやっぱりT-SQUAREの『TRUTH』だった。頭の中でブオンブオンとエキゾースト・ヒート音が響く気がする。メガホンを持った店員さんが入店時の注意を述べる。いわく、走らない、立ち止まらない、押さない。まあ立ち止まらないと押さないは分かるとして、F1の曲をかけといて走るなは通らないわけで。開店直前には100名程度まで膨れ上がった並びの人間は、自動ドアが押し開けられた瞬間、せえので一斉に猛ダッシュを始めた。

 

 列の先頭は僕だ。理由はただひとつ。僕が足が速いからだ。両手に缶コーヒーを持ってまずは入り口からすぐの通路をアウト・イン・アウト走法でドリフト気味に曲がる、僕の足にタイヤがついていたら、きっと甲高いスキール音を上げていたことだろう。そのまま一直線に20メートル程進み、まずは鉄板の『ハナビ』へ向かう。右手と左手にそれぞれ持った缶を二台の下皿に放り込み、勢いを落とさず駆け抜ける。これでオーケー。足が遅い町田くんとターボさんも着座確定だ。

 

 僕自身は突き当りまで走り抜け、目的の『ウルトラマン倶楽部3』へ滑り込む。千円を入れて貸し出しボタンを押し、サンドからコインを借りている間にタチやんが来た。隣に着座する。

 

「はぁ……はぁ……リャン、足早いなァやっぱ。フォレスト・ガンプみたいだったぜ」
「それ褒め言葉ですかねぇ……。微妙な気分になります」
「いいじゃん。ガンプは最終的に大金持ちになるしさ」

 

 さあ、と言ってタチやんは自らの頬を両側からペシリと叩いた。

 

「やりますか。早掛け」
「はい!」

 

 クレオフありの機種別イベでノる場合、とにかく何よりも早掛けが大事だ。1人がオスイチで当ててクレオフがなければ、他の人間もその時点で投資の必要がなくなる。他の台を炙りに行けるのだ。メダルを投入して打ち始めた辺りで、空いていた残り1台のマンクラに誰かが座ってきた。

 

「チャッス。よろです。タチやんと、リャンだっけ」
「あ、ジェイさん……」

 

 先程のリアルジャッキー、セノさんの連れのラッパー風の男だった。他の軍団員が隣に居るのはなんとも居心地が悪いので出来れば他所に行って欲しかったが、まあどいてくれという訳にもいかないので仕方がない。

 

「ここクレオフあんの?」
「えーと……どうだろう……」
「あ、あるんだな。君顔に出やすいなぁ! 嘘つけないタイプだろ。ハハ! イエーイ」

 

 ちらりとタチやんを見ると、苦笑いしているのが分かった。まあ隠しててもすぐ分かる事だし仕方ない。曖昧に頷いてからプレイを続行した。とにかく早く当てよう。早く。早く──。

 

 10G程消化したところで、不意に肩を叩かれた。振り返るとターボさんだった。

 

「あれ。何やってんです……?」
「悪い、取れなかった、ハナビ」
「え? なんで。コーヒー置きましたよ僕」

 

 店内BGMとほぼ満席の台から放射される効果音の中でターボさんの申し訳なさそうな声がギリギリ耳に届く。

 

「あのセノってやつ駄目だわ。めちゃくちゃ足が速ェ。3人とも抜かされてさ、ハナビ取られちゃった」
「うそん、3人とも抜かれたの?」

 

 タチやんが驚いたような声を上げた。まあターボさんと町田くんは分かるとして、僕らのすぐ後ろを走ってたゴジさんまで抜かれたのは予想外だった。こちらは3人中1がコーヒーのないハナビに座れば良かったのに。

 

「てかあの人この店初めてっすね。よく迷わずにハナビに……」
「いや、俺後ろから見てたからわかるけど、アイツはリャンを追いかけてたんだよ。リャンがコーヒーを置いたのを見て、ハナビに狙いを定めて空いてる台に座ったんだ」

 

 なんてこった缶コーヒー台確保作戦が、こんな形で裏目るとは。思わずタチやんと顔を見合わせた。刹那、右側から声がする。ジェイだ。

 

「ウヒョー! 赤7ボーナスもらいッ。CT頂きストリート! 早掛けじゃんこれ? 早掛けじゃん? 一番乗りイエーイ! フォォー!」

 

 小躍りしながら逆押しでボーナスを消化するラッパーまがい。あまりのウザったさに舌打ちしたい気分になったけど、とはいえクレオフの有無が分かるのはありがたい。無表情を装いつつ横目で確認する。最後のジャックゲームを消化し、2秒ほどの時間が流れた後、機械の中で僅かな駆動音がした。次いで、盤面が消灯し下皿にメダルが落ちる。クレオフだ。僕も、隣のタチやんも。そして背後に立つターボさんも。あるいは付近のシマで打ってたお客の体感時間がピタッと静止したような感じがした。

 

 ドンピシャだ。やはりイベント対象機種はマンクラだった!!

 

 高設定の台を打ってバカ出ししている時、全スロッターは共通してある種の瞑想状態に陥る。だたレバーを叩き、ボタンを押し最適場所でリールを止め、メダルを出す。繰り返すうちに催眠状態に近い感じになり時の感覚が消失する。ジェイの台がクレオフしたあとやや間をおいて僕の台が、そして次にタチやんの台でクレオフが発生した瞬間、僕らはその状態に入った。

 

 のどが渇いたな、と思って我に返った時、時刻はすでに夕刻を迎えつつあった。6時間ほど時間が飛んでいる。マンクラは3台とも程度の差こそあれ当たり前に爆裂しており、特にタチやんの台がもう少しでカチ盛り4箱目に届きそうなところになっていた。目算でだいたい7,000枚ほど。このまま閉店まで打ち切ればまず1万枚は堅い。CTの絡み方次第ではさらに枚数の上積みが期待できる展開だ。次いでジェイの台が並盛で5箱目。目算で5,000枚をわずかに超える程度。僕の台はCTの引きが悪い方に偏って未だ3,000枚前後だった。

 

 首の骨を鳴らして立ち上がる。

 

「タチやん、何か飲みます?」
「ン……。ああ、じゃあワイン……」
「違う違う。タチやん、ここホールだよホール」
「あ、悪い。なんか今ぼーっとしてた」

 

 マンクラのCTの消化は慣れていてもうっかりパンクする事があるくらい神経を使った。設定6は当たりが異様に軽く体感的にはボーナスゲーム以外の時間の半分くらいはCTに滞在している感じなので、とにかく大変な台だった。ノリの宿命として手抜きは一切許されず。ただ全力で、効率的に。それを休憩も取らず、食事も摂らず長時間ずっとやってると、脳に疲労が蓄積していって徐々に色んな感覚が狂い始める。簡単な計算ができなくなったり、今自分が何をしているか分からなくなったり。かくいう僕も何度かそういう状況になったことがあるんだけども、その時のタチやんには早くもその症状が出つつあった。

 

「タチやん、ターボさんとちょっと代わりましょうか? 少し車で休んだ方がいいかも。呼んできますよ、僕」
「ああ……。そうだな。その方がいいかも。少し疲れたよ」

 

 トイレに向かい、顔と手を洗ってリフレッシュする。次に車の中で寝てるターボさんに電話をしてタチやんと交代するように伝える。アイスコーヒーを二本買ってタチやんに渡すために戻りながら、ついでに『ハナビ』の様子も見に行った。ゴジさんと町田くんの戦場だ。あれ、そういえば今日は珍しくゴジさんずっと打ってんなと思ったら、様子をみてすぐ分かった。ハナビの隣の機種、ニューパルサーの端台。つまりはゴジさんの隣にはマルキューの店員を思わせるギャル系ファッションの女の子が座っていた。

 

 だらしなく鼻の下を伸ばし、何やらプレイ方法をレクチャーしながら設定6のハナビをダラダラと消化するゴジさん。腹が立つというよりも、ちょっと呆れた。

 

「ちょっと、ゴジさん。何やってんのさ……?」
「お。リャン。おつかれ。どうよ、マンクラは」
「タチやんが7,000枚くらい出してるよ。僕がちょっと不調だけど……。それよりゴジさん、フルウェイトフルウェイト。バンバン回そう?」
「バンバン回そうってってお前、ほんとぶっ殺すぞ? ハハハ。ほら、この子ミカちゃんっていうんだってよ。ミカちゃん、こいつリャン」
「はじめまして! ウチ、ミカっていいます!」
「ああ、どうも……」
「この子今日がパチスロ初打ちなんだってさ。凄くない? 運命じゃねコレ」
「ねー! ウチも隣に優しい人がいてよかった! 一人じゃ分かんないもんパチスロとか!」
「わかんないわかんない。一人じゃわかんないよパチスロは。大丈夫大丈夫。俺教えるから。ハハハ!」

 

 駄目だこいつ……! 思わず町田くんを見ると、彼はさっと目をそらした。なるほど、注意したくても出来なかったというわけか。まあ、町田くんは仕方ない。しかし、この状況はターボさんも知ってるはずなのに何故放置してるんだろう。そうだ、タチやんが復活したらターボさんとゴジさんを交代してもらえばいい。そうすれば効率が上がるし、僕らの時給も──……。

 

 と、そこまで考えて首を振った。

 

 ターボ軍団のモットーは「仲間と楽しく打つこと」だ。口の中で何度か反芻して目を開ける。薄暗いホール。ギラギラした盤面の輝き。どこからか聞こえる『TRUTH』。ここは戦場でもあるけど、仲間と一緒に無邪気に遊ぶべき場だ。胡散臭くて格好いい、最高の場所なのである。パン、と自分の頬を叩いた。

 

「ン。なにやってんのお前」
「ううん。なんでもない。じゃあ、ゴジさん頑張って。町田くんも。……ミカさんもね」
「おう! お前も頑張れよ。万枚期待してっぞ! ハハハ!」

 

 笑顔で手を上げて踵を返す。これでいい。何をピリピリしてるんだろう僕らしくもない。ただ、どうしても不穏な感じがするのだ。異物感といってもいい。楽しいはずのノリ打ちに紛れ込んだ正体不明の不協和音。ジェイさんか、セノさんか。あるいはその両方か。

 

 席に戻ると、既にタチやんとターボさんは交代したあとだった。タチやんに渡すはずだったコーヒーはターボさんに託す。

 

「ウェイ。リャン。改めて気合い入れていくぜぇ!」
「……はい!」

 

 勢い良く答えて、気持ちを切り替えてCTを消化する。頭の中で数字をカウントし、規定枚数を越えないように調整しながら止めるべき位置でリールを止める。そうしているうちにまた瞑想のような状態になって、目の前の台と、リールと、レバーとボタン。それからメダル以外が意識から消えた。ぐるぐると周り続ける図柄。やがて頭の片隅でふと思った。

 

──ジェイ。セノ。ふたりとも、僕らに寄生する形でしっかり6をツモってるな。と。

 

 

破られた軍団の禁忌

 

 見たことのないホールだ。僕は軍団のみんなと楽しく『ニューパルサー』を打っていたのだけど、そこに真っ黒い巨人が現れて、手に持った釘バットで周りの備品や機械をバンバン壊し始めた。巨人はよく見るとバーチャファイターのジャッキーでそのうち奴はバットを投げ捨て、ダッシュハンマーキックやエルボースピンキックなんかを駆使して破壊活動の限りを尽くし始めた。ガインガインと重苦しいカウンター音が響く。「やめろ!」と叫びながらターボさんが立ち向かうも、サマーソルトキックであっさり弾き飛ばされる。次に「ぶっ殺すぞ!」といいながらゴジさんが立ち向かうも、ニーキックでカチ上げられたのちにやっぱりサマソで弾き飛ばされていった。町田くんは結構いい勝負をしてたけど、最終的にはスラント・スピンキックで転がされてからダウン蹴り二発食らって退場する。

 

 ギロリ、と碧眼がにらみつけてきた。どうやら次は僕の番だ。どうしよう。何をすればいいか分からない。こういう時は開幕バックステップだ。まずは距離を取るべし。急いで下がろうとしたとこで、レバー3度入れのダッシュハンマーキックが飛んできた。バックステップ狩りの常套手段。甘えた相手を問答無用で転がす、強者の行動だ。ガイン! と音がして僕は重力を無視し、右斜め45度の方向にふっとばされた。ああこれはゲームが違う。バーチャじゃないよこれ。セガはセガでも『ファイティングバイパーズ』じゃあないかということはあいつはジャッキーじゃなくてラクセルなんだなぁそうかそうかなるほどねぇ──。

 

 と、そこで目が覚めた。あまりにバカバカしい夢を見たせいか寝汗がひどかった。時計を見ると眠ってから30分しか経っていない。

 

 もう一度ベッドに転がり、手を頭の後ろで組んで天井の木目を見つめる。新大陸発見Day2日目。本当の勝負はこれからだった。3日連続据え置き説が正しいのなら、本日もマンクラとハナビは6のはず。他の地域のプロが知るよしもない圧倒的な激アツイベントだ。お爺ちゃんやお婆ちゃんが大半のあの店の常連がそこまで朝早くから並ぶわけはないのだが、このイベントに全力のターボさんはなんと翌日の並び開始を朝3時に指定してきた。ゴジさん辺りがゴネるかと思ったが、彼は意外にもすんなりそれを受け入れた。よっぽど、あのミカちゃんとやらと出会えたのが嬉しいらしい。菩薩みたいな笑顔を浮かべて「いいですよ」と言っていて大変キモかった。

 

 万一の寝坊に備えてゴジさんとターボさんは今日は町田くんの家に泊まっている。タチやんは家業の棚卸しがあるからという事で一旦帰ったが、果たしてどうなんだろう。化粧品やの棚卸しがどれほど大変なのかは、シャンプーとリンスの区別もよく分かってない門外漢の僕には知るよしもないのだけども、果たして睡眠時間は確保できるんだろうか。ただでさえ今日はマンクラで体力を持っていかれて最後の方はフラフラだったのに。

 

 今日はなるべくタチやんに負担をかけないように、一番年下の僕がフォローしよう。そう胸に誓ってまた少し目を閉じたら、体感時間3秒くらいで目覚ましが鳴った。

 

「嘘だろ……もう起床か……。ああ、くそっ」

 

 午前二時半。急いで歯を磨いてシャワーを浴び、一杯だけコーヒーを飲んでから家を出た。真夜中だ。朝の気配すらない。よく考えたら昨日もそんなに寝てないので、流石にちょっとキツかった。例によって国道沿いに停められた車種不明のワゴンに乗り込む。今日は先にゴジさんや町田くんがいるので、僕は後部座席だ。

 

「ウェイ。リャン。おはよう」
「おはようございます」
「どうだ、体調は」
「いやー……眠いですね流石に」
「はは。そりゃそうだ。俺らも眠いぜ。ゴジがうるさくてさ」
「……あら、どうしたんですかゴジさん。今思いっきり後部座席で寝てますけど」
「なんか運命の女神に会ったとかなんか言っててさ。あれだろ? 昨日パルサー打ってたギャルっぽい子……。まあ確かに可愛かったなぁ……」
「め、め……めあ……メアド、こ、交換したって」
「えー。マジですか。ナンパじゃないですかそれ。ゴジさんやるなぁ……」

 

 途中でタチやんをピックアップして朝ごはんを買い、また車内を海苔臭くしながらお店に向かった。

 

「タチやん、寝ました? ちゃんと」
「ぜーんぜん。睡眠ゼロ」
「完徹かぁ……。大丈夫です?」
「まあ、パチスロ打つだけだからね……。なんとかなるさ」
「僕、フォロー出来ることあったらするんで、言ってくださいね」
「ああ、リャンはいい奴だなぁ。……君を仲間にして良かったよ俺は」

 

 ちょうどドリフカットのスイカみたいな形の半月。街灯もまばらなS県の夜道を、ターボカーが走る。こういうとめちゃくちゃ疾走してるみたいだけども、実際はミニバンに大人が五人乗ってるので全然走らない。当たり前だけどターボもついてない。ブブブイと間の抜けたエンジン音を響かせながらノロノロと国道を進むだけだ。

 

「さあ、コロンブス到着。お客はいませんと……はい一番のり……あれ?」

 

 最初に気づいたターボ君が絶句した。眠すぎて一瞬意識を失いかけていた僕も、目の前に飛び込んできたその状況をみてお尻の辺りにゾワゾワとした不快感を感じた気がした。フルスモークのエスティマ。足立ナンバーの777だ。

 

「なん……だと……?」
「ターボさん、昨日あいつらの車が出るの確認しましたよね?」
「した……。万一のことがあったらヤバいから、交換済ませたあとアイツらが車を動かすのを見てから俺らも……なぁ?」

 

 タチやんが深刻な顔で首を振った。

 

「これはやられたかもね。アイツらどうやってか知らないけど。据え置きについて知ったんだよ。だから車を出したあと、また戻ってきたんじゃないか。あの感じじゃ多分閉店後すぐか……日付は変わる前だろうなぁ……」
「うわ、前日並び……。マジか……」

 

 イベント狙い、特に据え狙いの店舗攻略はとどのつまり「並びの戦い」だ。この場合、最適解としては「前日の閉店直後からすぐに並ぶ」のが最強で、それに勝る強行動はない。なので本来ならば僕らもそうするべきだったのだけど、5人という人数の少なさが思いっきり裏目にでた。なんせ狙い台は今回6台もある。交代要員が足りてないのである。

 

 駐車場に進入し、車内から様子を伺う。雨風を凌ぐ為だろう。並び場所から少しだけ離れた、ひさしのある平たい空き地。そこでレジャーシートにパイプ椅子を並べ、5人の人影が腰掛けているのが分かった。先頭にセノ、二番目にジェイ。次に初めて見る筋骨隆々のタンクトップ男。次にPIKOのシャツを着たちょっとダサめのひょろ長い男。最後に……。

 

「ミカ……ちゃん……なんで……」

 

 列の最後尾。紙パックのコーヒー牛乳を飲みながら周りと談笑していたのは、昨日ニューパルサーに座っていたマルキュー店員風のギャル。ミカだった。ゴジさんが真っ青な顔で押し黙る。まさか。

 

「ゴジ、なんか言いたそうだね。どうした?」

 

 タチやんが優しく言うと、ゴジさんはひと目で分かるほどブルブル震え始めた。顔を真っ赤にして、目尻に大粒の涙まで浮かべている。

 

「すいません……! 俺っち……そんなつもりじゃ……。だってミカちゃん、初めてパチスロ打つっていうから……。団地の住人だって言ってたし、セノの野郎と目も合わせなかったし……」
「そんなことはいいんだよ、ゴジ。情報、漏らしたのかい──?」

 

 ゴジさんは、消え入りそうな声で「はい」と言った。僕の目の前が、なぜだか暗くなった。ゴジさんは確かにバカだし口も悪いけど、設定判別に傾ける情熱は本物だった。案外年下を思いやる心も持ってるし、弱者に対しても優しい。

 

 いつだったか、二人で茨城の方まで足を伸ばした時だ。関東鉄道のとある列車内で、彼は誰よりも早く子連れの母娘に席を譲っていた。それも一度や二度ではない。老人や年寄、ハンデを背負う人を見かける度に、彼は光の速さで席を譲っていた。自分も深夜からの並びで疲れていたとしても、必ずだ。

 

 ターボさんが喉を鳴らす。車内に静寂が流れた。そのうちポツリポツリと力のない声が聞こえてきた。誰も何も言わずに、黙って聞いた。なんせ僕らは上手くしゃべれない人の話を辛抱強く聞くことに慣れてるんだもの。

 

 その後の彼のとぎれとぎれの説明を纏めるとこうだ。

 

 ミカちゃんはパチスロを初めて打つ人だった。団地に住む娘さんだと彼女自身も説明してたらしい。朝から散歩にいこうとしたところでお店の前に沢山の人が並んでいるのを見て、興味本位で入ったそうだ。そこで選んだのがニューパルで、たまたまゴジさんの隣だった。もちろんそれは彼女の嘘で、実際はゴジさんを狙い撃ちしたハニートラップだったのだけども、そんな事を知るよしもないゴジさんは、文字通りマンツーマンで丁寧にパチスロの打ち方を教え、仲良くなってメールを交換しながら、設定の概念やらなにやらの質問に、一晩中丁寧に答え続けてたらしい。

 

「だってさァ……。ハートマーク付けてくるんだぜミカちゃん。ハートマークだぞ……うう……リャン、どうだよお前……ハートマークだぞ?」

 

 また今度一緒に打ちたい。誘いは彼女の方からだったらしい。恋の病に冒されたゴジさんの脳はここで絶対の禁を破った。それは彼自身の手でケータイごとターボくんに手渡され、その場の全員が回し読みする事になったメールが何よりの証左だった。

 

 ここは彼の名誉を守るため全文を掲載することはしないけど、内容は一言で言うと読んでるこっちが恥ずかしくなるくらい浮かれまくっており、このクリクリ坊主のヤンキーに恋の免疫が一切無いらしいのが問答無用で分かりすぎる程わかる酷い文面だった。

 

 そして問題なのはそこにハッキリと「明日と明後日も全据え置き」と記されており、これによりセノさんたちに情報が漏れたのが明らかな事だった。

 

 むせび泣くゴジさん。車内には鎮痛なムードが漂っていた。

 

 禁を破る。これは「信頼」を何よりも重んじるターボ軍団において絶対にあってはならないことだった。気づいたら、僕は思いっきり拳を握っていた。何かを言わなければならない。助けねば。と。

 

「あの、ターボさん、タチやん。ほら、ゴジさんも悪気があったわけじゃないですし、ね。そのォ……ここは何とぞ、穏便に……」
「……リャン」

 

 少しだけドスが効いた声がした。ターボさんだ。思わず黙る。

 

「リャンは、何が食いたい?」
「え、食いたい? メシっすか?」
「ああ。コレが全部終わったら、何が食いたい?」
「えー……焼き肉? ですかね」
「ンー。俺も賛成だなぁ」
「いやぁ、これは寿司じゃないかい。回んない方の」

 

 タチやんが言うと、ターボさんが頷いた。

 

「寿司もいいなぁ……。けど焼き肉かなぁ俺は。いいだろ、焼き肉で」
「ンー。まあいいか。じゃ、そういう事だから。ゴジ」
「……え?」

 

 ゴジさんがあっけに取られたような顔をした。

 

「これ終わったら、全員に焼き肉奢んな。それでいいよ。忘れよう。な?」
「い、いいんですか?」
「いいよ。なあ町田くん」
「ソ……ソ、ソ、ソープ、でゆる、す」

 

 今まで泣いていたゴジさんが思わず吹き出した。

 

「ちょ、町田くん、それは駄目だって。高すぎるよ。もう! たまんねぇなぁ」
「ハハ。こういう時は町田くんが一番厳しいからな。気をつけておけよーリャンも」
「はい、気をつけます」
「あー、あとなーゴジ。お前メールのセンスちょっと酷いぞぉ。俺よりオヤジ臭えもん。なあタチやん」
「言えてるね」

 

 笑い声。車内の空気が、解き放たれたように軽くなった。

 

 こうして、恐らくはセノが仕掛けたであろうハニートラップ及び離間工作は、ある意味では大失敗に終わったのだった。なぜならこの事件により僕らの心は完全に一つになったし、そして完全に結束した5人というのはゴレンジャーの例を挙げるまでもなく戦時においては「小規模な戦闘を行うのに最も適した人数」で、そのよく訓練された伍隊が、同じく5人組の先方を完全に「敵」と見なす事になったからだ。つまりは、戦争である。

 

「よぉし……。じゃあ、ヤッちまうかあいつら」
「……ぶっ殺しますか!」
「いや、そういう物騒な事はしない。でも、絶対に狙いの台は俺たちが頂く」
「……どうやって、ですか?」

 

 車内から見ると、レジャーシートどころかカセットコンロで食事まで作ろうとしている。このまま待ってたらいずれアスファルトを掘って井戸までつくりそうなほど並び慣れていたし、彼らがこのまま席を外すような迂闊を働くとは思えない。

 

「まあ、見てなって──……」

 

 ターボさんが不敵な笑みを浮かべながら、ケータイを取り出した。

 

「あー、もしもし。警察ですか? あのー、家の前の駐車場で騒いでる連中がいてぇ。はい……何か火も使ってバーベキューみたいな事やってておっかないんで、ちょっと来てもらえます? はい……あ、俺ですか? 俺はもうあの、団地の。ええ。団地の人です。はい。場所は『コロンブス』っていうパチンコ屋なんですけど──……」

 

 車を移動する我々。道路を隔てた団地側の駐車場で様子を見ていると、およそ5分後にサイレンを消したパトカーが2台やってきた。パトカーはそのままコロンブスの駐車場に入ると、中から制服姿の警察官が4名降りてきて職質を始める。やがて警察官が見ている前で、彼らはレジャーシートやカセットコンロを片付け始め、エスティマに乗り込むとそのまま僕らが居るのと同じ、団地の駐車場へやってきた。車種不明のよくわからないバンとカリカリにチューンしたエスティマが並ぶ。

 

 そのままお互いの出方を伺うように静かな時間が流れたが、1時間ほどで1台の車がやってきて、そのままコロンブスの駐車場へ入っていった。通報を受けて連絡が行った店舗関係者だ。明らかに不機嫌そうに辺りを見回しながら、駐車場の入り口に三角コーンを立て、ポールの間に進入禁止のチェーンを貼った。

 

 ふう、とターボさんが息を吐く。

 

「よし……。これでノーカンだ」
「これ、どうなるんですか?」
「今が4時だろ? だいたい8時30分くらいになるとスタッフさんが出勤してきて、それからチェーン開放するのが9時半とかかな……。車に乗ったまんま入ろうとしても絶対間に合わないからその国道の所に路駐して一斉に全員でダッシュだ」
「路駐ッスか……!」
「そりゃそうだろぉ……。マンクラをツモれば駐禁切符10回くらい払ってもまだお釣りがくるぜぇ……!」
「まぁ、そうなるよね。でもまあ、向こうも同じこと考えてるだろうねぇ」

 

 タチやんがアゴで窓の外のエスティマを指し示すと同時に、ゴジさんの携帯が震えた。

 

「ミ、ミカちゃんだ……」

 

 携帯の画面に照らし出されたゴジさんの顔が、不思議な感じで歪む。隣にいた僕と目が合ったあと、彼はゆっくりと画面を僕に見せてくれた。

 

 セノだ。あんたたちのリーダーと話がしたい。

 


まさかの休戦協定…取引は成立?

 

 2000年10月13日金曜日。開店直前。『コロンブス』の正面入口から黒いベスト姿のスタッフが姿を現した。ゆっくりとした歩調で駐車場の入り口に近づき、そして国道側の歩道で繰り広げられている光景を目の当たりにした彼は、ちょっと驚いたような顔をした。駐車場に入れない事で路駐をする車が生み出す混沌や、あるいはチェーン前にたむろする常連たちの怒号を覚悟していたのだろう。でも実際は、路駐もなければ不満の声もない。絵に描いたような美しい整列が、歩道の上に一直線にできていた。

 

 先頭にはターボさん。次がセノ。それからタチやん、続いてジェイ。ターボ軍団とセノ軍団が、先頭から十名を交互に占めていた。僕はターボ軍団の最後尾で、後ろには例のミカという女がいた。

 

「ねぇ、昨日から気になってたんだけどアンタ何歳?」

 

 無視してたら、靴のかかとが蹴られた。

 

「いたッ。なんだよもう……。構わないでくれる。僕に」
「ウチが話しかけたんだから無視すんなよォ。何歳だって聞いてんの」
「18だよ……」
「へぇ、若いね。ウチ22」
「ああそう──」
「うわ、なにそれ、カンジ悪い」
「こっちのセリフだっての……」
「何か言った?」
「……いや」

 

 昨晩、このミカとやらの携帯からゴジさん宛に来たメール。セノがターボさんと話したがってるとかいう内容だったけども、これを僕らは潔く無視することにした。なんせハニートラップとかを平気で使ってくるイカれた連中なんだもの。全ての行動には何らかの毒が仕込まれていると思ったほうが良い。

 

 というわけで僕らは車内で朝まで寝て過ごす事にしたんだけども、10分ほどすると運転席側の窓を小突く音がして起こされた。見ると、セノとジェイだった。フンと唸ってからパワーウィンドウを操作するターボさん。ニセジャッキーことセノは、透けるような白い肌の顔に笑みを浮かべていた。

 

「よお。あんたら。勘弁してくれよ。さっきの通報。ありゃ君らだろ?」
「だったらなんだよぉ?」
「そりゃ反則だぜ。店にも迷惑だろあんなの」
「よく言うぜお前ら。どうせ普段はこんな店見向きもしないくせに。俺らはちゃんとたまにこの店に通ってんの」
「なんだよ。『なわばり』って言いたいのかい。甘っちょろい事いってんなぁ……」
「甘っちょろくて結構。とりあず俺らは君らの所と仲良くするつもりはないねぇ」

 

 そうだそうだ! ぶっ殺すぞ! とゴジさんが合いの手を入れる。セノは苦笑しながら続けた。

 

「さっきだってなぁ、俺たちゃ君らが来たら話し合いして平和的に交渉するつもりだったんだぜ?」
「ン? そうなの?」

 

 ターボさんがグラつく。咄嗟に助け舟をだした。

 

「それたぶん嘘だよターボさん。そんなの、ミカって子の携帯からさっきみたいにゴジさん宛に話し合いについてメールすりゃあ済む話だったじゃないか。それしなかった時点で嘘さ」
「へぇ……。リャンちゃんだっけ。なかなか冴えてんじゃん。でも違うんだなぁそれが」
「どうしてですか」
「そこのさ、ゴジだっけ? ミカがそいつにうっかり嘘ついてたろ。この辺の人間だって。だからメールじゃあ言うに言えなかったんだよ。変な誤解されて警戒されても困るしさ。それに、ホントに君らとガチガチにやるつもりだったら、もっと人数連れてくるっつうの。ほら。さっき俺らの数かぞえたろ。きみらと同じ5人だったっしょ」

 

 向こうも5人。コチラも5人。確かに軍団同士の話し合いという意味では、数を合わせるのは筋が通っているように思えた。そこは信じても良いかもしれない、と思った瞬間、何かがまた引っかかった。

 

「いや……違いますね。セノさん。僕はあなた達が5人しか連れてきてないとは思ってない」
「……なんで?」
「あのミカって子の例があるからですよ。貴方はそもそも彼女のことを僕らに紹介しなかった。一度そうやってだまし討ちをした人を、僕は信頼できない」

 

 ヒューと口笛を吹くセノ。さすが見た目は外国人だけあってサマになってた。

 

「いいねリャンちゃん。うちのチームに来ない?」
「……断ります」
「だろうね。……分かった。じゃあリーダー。腹を割って話そうぜ。これは取引だ。正直俺らも『ウルトラマン倶楽部3』の6は流石に捨てられない。だから今日と明日それぞれ1台だけ打たせてほしい。出来ればハナビも1台」
「1台……? 1台でいいのか?」
「構わない。それでもマンクラだったら十分利益になるしな。その代わりこっちから君らに東京都のホールの情報をいくつか流そう。その後はそっちが持ってるS県の情報と俺らの情報を交換できるよう、連絡先を交換してさ。ターボさん。友達になろうぜ」
「友達……?」
「そうさ。お互いにとって損はないだろ? なんせ、これからパチスロはドンドン食えるようになっていくぜ。そしたら今までホールに見向きもしてなかったようなシャバい連中がどんどん入ってきて生意気コキ始めるに決まってる。ふざけんなだろ、そんなの。きみらそれを許せるか? 先行者利益だよ。先に手を組んでシャバ僧が入ってくる隙間を埋めちまおう」

 

 車内に再び重苦しい沈黙が流れた。たっぷり時間を掛けて、ターボさんが口を開く。

 

「別に……俺らは周りがプロだらけになっても構わないよ。……自分らの食い扶持だけ、楽しく稼げりゃそれでいい。好きにバカな事をやって、面白く生活して……。それができりゃ充分だ。ただ──」
「ただ?」
「情報交換には賛成だ。悪くない提案だと思う。みんなが仲良くするのはいいことだし。それに今後あんたらと衝突しないでも済むんだろ?」
「そりゃもちろん。仲間になるからな」
「……どうだみんな?」

 

 みんな若干納得できない様子ではあったが、そこは団長の決定だ。僕は即賛成を表明した。続いてタチやんが。町田くんが。最後に渋々といった様子でゴジさんが首を縦に振った。

 

「エクセレントだ。じゃあ、次に差し迫った問題を解決しよう──……」

 

 秋も深まっているというのに、真夏のような暑さだった。

 

 歩道にズラリと並んだお客さんたち。これもセノの発案だ。昨日の通報事件によりチェーンがかけられた駐車場は僕らはもとより常連たちにとってもイレギュラーだったはずだ。朝の入場には混乱が生まれるはず。今回のように目的の台があからさまにはっきりしている場合、この「混乱」がかなり嫌だったりする。ある程度のカオスは仕方ないとはいえ、入場順が守られるのも目的の台を取れるのも、どこか最終的なラインで秩序が保たれている必要がある。そうでなければ混乱に乗じた無関係な第三者が台を確保してしまう可能性があるし、そうなってはもう、当然のことながらどうしようもない。

 

 今回の場合は無秩序を放置したら恐らくチェーンのギリギリ前まで常連たちが押し寄せて、開放と共に一斉に店舗前に押し寄せる公算が高かった。足が速い僕やセノは恐らく先頭あたりにツケることが出来るけど、他は怪しい。また、そうなった時にお店側の判断で勝手に先頭を決められる可能性もゼロじゃなかった。こうなるともうお手上げだ。

 

 セノはこれを避けるため、居合わせた10名の軍団員全員で列を作る提案をした。不平等にならないよう……むしろコチラに若干有利なよう、ターボさんを先頭に交互に並ぶ。例えそれが駐車場内ではない単なる歩道でも、人は列を見たら「並ばなければならないのだ」と勝手に判断する。そしてその列は長ければ長いほど良い。短すぎると列に見えないからだ。10人いれば立派な列に見えるし、実際そうやっていると後からきた常連たちは次々と勝手に後方に並んでくれた。背後を振り返る。ギャル風メイクの女の後ろには、既に40人近くの列が出来ていた。


「何よアンタ、ジロジロ見ないでくれる」
「別にあなたを見てるわけじゃないさ……列を確認してるだけだよ」
「どうだか……」
「はぁ? 何を言ってるんだろこのギャルの人。バカじゃないの」
「何か言った?」
「別に……。ほら、もうオープンですよ。指示通りね。分かってる?」
「分かってるわよ」

 

 チェーンが外されたあと、先頭の僕らはわざとゆっくり歩く。混乱を招かないためだ。店員の指示に従い、ゆっくり。ゆっくり。そうして、駐車場内のいつもの並び場所まで歩を進めたら、そこで取り決めの通り「打ち役」のみが残り余計な人は列を離れる。今回の場合「ウルトラマン倶楽部3」を打つのが僕と町田くん。そしてジェイ。ハナビを打つのがゴジさんとターボさん。そしてセノ軍団からなんとミカが指名されていた。打てるんかい! と全員が心の中で突っ込んだし、ゴジさんは勝手に精神的なダメージを受けていた。

 

 タイミングをみて、タチやんがスッと列を離れた。それを確認した後、セノ軍団のムキムキとPIKOシャツの奴、そしてセノ自身が列を離れる。不穏な動きがあったらすぐにでも密約を反故にして全員で台を押さえてやる。と思っていたけども、ここまでは特に問題なし。僕らの肩からもやっと力が抜けた。

 

「じゃあミカ。頑張ってな」
「うん、ありがとうお兄ちゃん」

 

 ん。お兄ちゃん。

 

「あの、もしかしたらミカさん、セノさんの妹なの?」
「そうだよ。ウチも妹尾」
「もしかしてお母さんは……」
「うん、ロシア人」

 

 思わずその顔面を凝視する。濃い目のギャルメイク。多少肌荒れが目立つが、よく見るとたしかに西欧人的な顔をしてる。ミニスカとブーツのせいかと思ってたけど手足もナチュラルに長い。

 

「リ、リアルサラいたよ……。マジかよ……」
「何?」
「いや、あのね、ミカさんのお兄ちゃん、僕らがハマってるゲームのキャラにそっくりなんですよ。んでまあそれキャラには妹がいて──……」
「ああ、ジャッキーとサラのブライアント兄妹でしょ?」
「え、知ってんの?」
「もちろん。めっちゃやってるしウチら」
「え!? やってんの!?」
「うん。ていうかお兄ちゃん、ジャッキーに寄せてるからねアレ。目はカラコンで、髪も元々は黒だし。」
「マジで!? ダサっ! 詐欺じゃん。普通に。ないわァ……。それはない。ちょっと、ターボさん。ターボさん!」
「……なんだぁリャン」
「セノさん、黒髪らしいっすよ! 目もカラコンだって」
「え!? マジで。ダサっ!」
「ね! ヤバいですよね! ミカさん、最初あの人、僕らに英語で喋りかけてきましたよ! なんだっけ。『ソーリー・サー』とか言って」
「うそ!? ダサっ! お兄ちゃんそんな事したの?」
「した! ねぇラッパーの人! ねぇねぇ! やりましたよね最初!」
「えー……俺の事? うん、やってたような……やってなかったような……」
「いやいやいやいや、だって、セノさんさっきも車の所で『シャバ僧が入ってくる隙間を埋めちまおうぜェ』とか。そのあと『エクセレントだ!』とか言ってましたよね。どう思いますミカさん」
「やだぁもう! 言わないで!」
「『エクセレントだ!』って」
「ほんとやめて……!」

 

 意外と、セノ軍団の人々も楽しい奴らなんじゃないか?

 

 まあ、手が結べるのなら、それはそれでいいような、そんな気もした。

 

 本当の戦いが始まるのは、もう少し先の事だった。

 

(次回に続く)

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